バイオレンス・エイト  


クエンティン・タランティーノといえば息もつかせぬ展開と目を背けたくなるような血の惨劇であろう。そこがまた彼の映画の魅力で、新作『ヘイトフル・エイト』もバイオレンスの雨あられ、観客はいつものようになんなく登場人物たちの虜になってしまう。しかも今回はバイオレンス度が過去最強。ということで、これまでの過去作品からどれだけ『ヘイトフル・エイト』のバイオレンス度が増しているかを、独断タランティーノバイオレンスランキングという形式で探っていきたいと思う。

 

第八位 『ジャンゴ繋がれざる者』

ソフトな暴力描写だけでなくストーリー性も穏やかだったこの作品は、ファンの間ではいまいち評判が悪い。大ボスのキャンデイ(レオナルド・ディカプリオ)も死んだか死んでないかのような薄味の死に方だったし、黒人を差別する黒人のスティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)も爆破であっけなくあの世行きだった。何よりジャンゴの妻ブルームヒルダの鞭打ちは黒人差別を描く上で非常に重要なシーンだったが、それもはっきり見せずに、ミミズ腫れになった傷跡を見せるに留まっていた。評価できる点はタランティーノ自身がスタントを自らこなし、爆死するシーンだ。

 

第七位 『ジャッキー・ブラウン』

エルモア・レナード原作の『ラム・パンチ』同様バイオレンスシーンは少ないが、いつ撃つのか、撃たれるのか、ハラハラしっぱなしの展開が盛りだくさん。ちなみにタランティーノ作品で最も出演回数の多いサミュエル・Lジャクソンが一番狂気に満ち溢れているのもこれ。そしてサムの相棒ルイス(ロバート・デ・ニーロ)が黙れと言っても黙らないヤク中のバカ女を撃ち殺すシーンは傑作。

 

第六位 『レザボア・ドッグス』

タランティーノの長編処女作にして、未だにファンに絶大な人気を誇るこの作品。理由はヴァージンだからといって容赦しなかった点にあるだろう。物語の中心人物Mr.オレンジ(ティム・ロス)がいきなり腹を撃たれて絶叫しているシーンから映画は始まる。観客はMr.オレンジの真っ赤な血が溢れる理由を追うハメになる。そして何より有名なのがMr.ブロンド(マイケル・マドセン)の耳切シーンだろう。妻子ある警官を拷問するために、ラジオから陽気な音楽をかけてダンスを踊りながら耳を切るMr.ブロンドに恐怖を感じ、その後部屋で一人踊った経験があるのは筆者だけではないはずだ。

第五位 『キル・ビルVol.1 Vol.2』

カンフーアクションと日本の時代劇の殺陣をアメリカンコミック風に描写したこの作品を知らない人はいないだろう。女殺し屋ザ・ブライド(ユマ・サーマン)の復讐劇は留まるところを知らず、ビル目掛けて猪突猛進。「ヤチマイナー」でお馴染み日本のヤクザ界を仕切るオーレン石井(ルーシー・リュー)の頭をばっさり切ったり、女子高生用心棒のGOGO夕張(栗山千明)にパイナップル型の鉄球を食らわせたりとハチャメチャ。にも拘らずラスボスのビルを五点掌爆心拳という意味不明の必殺技でトドメを射すところが、タランティーノの粋な部分である。

第四位 『デス・プルーフinグラインドハウス』  

理不尽とはこの映画のことである。だらだらと長い女たちのバカ話ばかりが続くと思いきや、いきなりアイツはやって来る。耐死仕様=デス・プルーフのスタントカーを使って女たちを次々に殺す殺人鬼、彼の名はスタントマン・マイク(カート・ラッセル)。拉致した女を見事なハンドル捌きでボコボコにし、特攻野郎の如く車に突っ込む。足は吹っ飛び、顔はもげ、うら若き乙女たちが彼の餌食となっていく。そんな童貞少年さながら女にアタックしていくスタントマン・マイクの息の根を止めるのもスまたタントマン、否、スタントガール。蛇の道は蛇とはよく言ったもんで、狂った彼自身の死もまた狂った女たちにもたらされた。イエーイ!

第三位 『パルプ・フィクション』

『レザボア・ドッグス』で勢いに乗ったタランティーノは続くこの作品で、アカデミー賞脚本賞を受賞した。肝心かなめのバイオレスもばっちり。特にブルース・ウィリスが演じるボクサーのブッチが全く知らない変態警官Zに拉致されるシーンは必見。ブッチと敵対していたマフィアのボス、マーセルスまで尻を掘られ、男にとっては悪夢そのものをパルプに描いた。お返しにマーセルスはショットガンでZのキンタマを撃つ。タマにお別れを言えなかったZが、激痛で口をあんぐり開けているのがなんとも残念だった。(『イングロリアス・バスターズ』『ヘイトフル・エイト』にはもっと派手なキンタマ銃撃シーンがあるのだ)

第二位 『イングロリアス・バスターズ』  

タランティーノ作品で死亡者数がダントツ一位のこの作品。それもこれも戦争という暴力に暴力で逆襲する名誉なき野郎どものなせる業。ナチスの兵士の頭皮をナイフで剥ぎ取る彼らの勇姿、というよりは無慈悲さに心打たれる者も多かったであろう。特にSSの将校をバットで殴り殺すユダヤの熊こと、ドニー・ドノヴィッツ軍曹(イーライ・ロス)の歓喜は未だに忘れられない。挙句の果てにはヒトラーとゲッベルスの顔にマシンガンをブチ込み、自爆するバスターズ。他人や己がどうなろうと知ったこっちゃない、という暴力の核心に触れることの出来る一作。

第一位 『ヘイトフル・エイト』

先述したように、人種差別を引き合いに出すには徹底した差別描写が必要だが『ジャンゴ』で反省したのか、タイトル通り今回は見事にこなしていた。フェミニストには悪いが女囚人デイジー・ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)への肘鉄が愉快になるほど、人種差別のオンパレード。流石に白人男性にフェラチオさせる黒人は観ていて辛かったが、ここも重要なシーンと言わざるを得ない。 差別とは全く関係無いバイオレンス部分も抜群だった。ここまではっきりと頭が吹き飛ぶシーンはこれまでのタランティーノ作品にあっただろうか。頭皮を剥ぎ、眉間をブッ飛ばしたりはあったが、木っ端微塵は初めてだ(『パルプ・フィクション』のマーヴィンは脳味噌が飛び散っただけ)。しかも二回もなんて誰が予想できるだろうか。思うに前作の『ジャンゴ』から血糊の量が圧倒的に増した気がする。撃鉄を引き、着弾してから噴射する血や、大量の吐血はこれまでの作品を遥かに凌駕していた。まさに堂々の第一位!

 

というわけで独断ランキングいかがだっただろうか。新作『ヘイトフル・エイト』と過去作品の残酷度合いが違うことを理解して頂けただろうか。(解らない人は今すぐ映画館に行ってください)その順位は違う!と口をはさみたい人もいるだろうが、そこはほら、知ったこっちゃない、だ。 で、ここまで書いてタランティーノに感じるのはやはり尊敬と畏怖の念だ。彼の創り出したキャラクターたちを一見すると正義と悪という二元論的な構図に見えなくもないが、彼らの振るう暴力にピントを合わせることで、愚かな過程、卑怯な手段、悲惨な結末が見えてくる。或いはおかしな彼らと、我々おかしな一般人の共通項が現れてくると言い換えても良い。単純なようで単純じゃない部分。だから観客は残酷なシーンに嫌悪するし、共感もするし、興奮する。これらは愛のあるユーモアで観客を巻き込んでいくあっぱれタランティーノ大先生だからなせる業なのだ。

 

オシリ・ギャラガー