レーティングにまつわるヘイトフルな問題
1.大人
映画館を出て、3時間以上もタランティーノワールドへ浸れた喜びと早速高まる次回作への期待感が僕の中を満たしていた。そして、アメリカの映画界は層が厚いな。と野球チームを評するような幼稚な感想がまずあった。
監督のクレジットのみが映画館に足を運ぶ理由となり、見れば十分に楽しませてくれる映画監督がアメリカには何人もいるのだ。
そんなことをうだうだ考えていると、あることを思い出し、ハッとした。『ヘイトフルエイト』はR-18なのだ。それは長年忘れていた感触だった。20を過ぎ、5年。一気に身の周りの束縛はなくなり、自由を奪われた者たちの感覚はすっかり僕の体から抜け落ちていた。
ただ一つ簡単なことがわかった。高校生は映画界のスーパーヒーロークエンティンタランティーノの最新作を映画館で見ることはできないのだ!!
2.映画倫理委員会メニュー
劇場上映向け新作
劇場上映と同日又は後日二次市場で販売、配信される新作を含みます。
1. 宣材類
a. 題名・基本宣材(ポスター他)・・・・・・・・1作品一式@20,000 円
b. 予告篇、特報、予告篇集・・・・・・・・・・・審査料は無料
c. 宣伝用特殊映像・・・・・・・・・・・・・・・審査料は無料
2. 本編
a. 基本審査料(劇映画、ドキュメンタリー映画など)・・ 基本審査料 ・・・・・・・・・・・・1分あたり@2,740 円
b. 特別審査料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 特別審査料 1 分あたり@1,000 円 (上限 90, 000 円)
3.嘆き
「レーティングは高すぎるよ。予算がねえからレーティングとれねえし。
あの映画館やあの映画館では上映できねえや。糞野郎!」
「おい、お前!人前で糞とか言うな!(耳元で囁くように)糞野郎!」
4.子供
田中はIDを偽装するということまではしなかった。手にはFreddie Gibbs and Madlibの『Piñata』のLP。ジャケットがぼろぼろだ。
一人目から身分証を要求された。
「忘れたんです。」とは言った。
「申し訳ございません。ご提示いただけないと聴かせるわけにはいかないんですよ。」
「どうにかなりませんかね?」
「どうすることもできないんですよ。」
田中は童顔すぎた。あと顔にニキビが多すぎる。
そこから一番離れたレジに向かおうとするが店員はベテランっぽい雰囲気のおばさんだった。しかし、田中には「逆にいける」などという謎めいた考えが浮かび、彼は敢えてトライした。
「一応身分証見せてもらっていいかしら?」
その口調に田中は焦ったが、怯まず言った。
「あー忘れたっぽいっす。すいません。」
「あーじゃあ聴けないわよ。ごめんね。ルールなの。」
この日、いつもよりおしゃれシャツを着た田中はMadlibのトラックを聞くことができなかった。
弾コウスケ