嗚呼、23歳


23と聞いてここはシンプルに23歳になったばかりの自分がおれの好きな23歳について映画を交えて紹介するという形でお送りしようと思います。

 

 

・  嗚呼、ディランの23歳

ディランの23歳は調べれば調べるほど素晴らしい。かのディランフリークのみうらじゅん曰くディランを聞くときは自分の歳と同じときにディランが作ったアルバムを聞けばいいという話もあるほどディランと年齢の関係は切っても切り離せない。そして、23歳のディランが作ったアルバムと言えば『Bringing it all back home』である。アコースティックギターをエレキギターに持ち替え、プロテストソングを歌うことをやめ、詩はより抽象的により芸術的になり、髪の毛もねじれまくって、頬の脂肪も削ぎ落とされて、大人の顔立ちになった。ディランの23歳はこんな感じだ。

『Bringing it all back home』の1曲目の『Subterranean Homesick Blues』ではより言葉のリズムに重きを置いて、20年後のニューヨークの黒人達のように韻を踏み続ける。これは所謂世界初のラップソングなのではないかとも言われている。しかもこの曲につけられた映像はミュージックビデオの先駆けとも謂れ、初物尽くしのとてもありがたいアルバムである。現代まで聞かれる「ロック」というものの歴史みたいなものがあるとすれば地続きで辿れる一番簡単な始まりにこのアルバムは存在するはずだ。

で、よりそのことを理解する上で役立つのがロック映画とマフィア映画の巨匠マーティン・スコセッシが撮った『No Direction Home』だ!このDVDで言うところの二枚目がちょうど22、3歳のディランから始まる。合間合間で流される1966年のロイヤルアルバートホールでのディランのライブ映像は言うまでもなく最高で、23歳のディランのフォークからロックへの転身をディラン自身、周りの友人たち、当時の社会がどのように見ていたのかがよくわかる傑作ドキュメンタリー。ディランの幼少期から描き、そのディランが影響を受けてきた音楽とともに話しが進んでいくので、カントリーミュージックから23歳のディランが唯一無二の楽曲たちを生み出していく過程を見ることができ、最近ではなかなかお目にかかれなくなってきている本当に新しい物が生まれる瞬間を追体験できる。大昔に撮られた『Don’t look back』というまさに23歳のディランを撮った映画もあるようだが日本版は廃盤になっているようでなかなか見ることはできないが、そちらもチェックしたい。

嗚呼、ディランの23歳、すごすぎる。

 

images-1

 

・  嗚呼、大江健三郎の23歳

大江健三郎と言えば、ノーベル文学賞をとり、本来では国民的作家としてもっと祭り上げられてもよさそうだが、なかなかそうもならない。ひたすらじめじめと暗くて文体のややこしい小説を書き、政治的な立ち位置を明確にしたがることなどが万人には理解し難いことであるからかもしれない。確かに彼が23歳のときにとった芥川賞の受賞作品もなかなかのものであった。太平洋戦争末期の閉鎖的な村にアメリカ軍の黒人兵が乗った飛行機が墜落し、生き残ったその黒人兵を村で文字通り「飼育」するという話だ。その中での子どもと黒人兵の交流を主に描くという作品である。この頃の大江といえば性器のことはセクスと表現するし、比喩表現の厚みが文章をより詩的にし、内容をぼやけさせるほどに文章に凝っているので結果として難しさを生んでいる。

黒人兵と子どもたちが泉で裸になり遊び、子どもたちは黒人兵の「堂々として英雄的で壮大な信じられないほど美しいセクス」を見た。子どもたちがそんな「セクス」を持つ黒人兵と遊んだ喜びの感情を

「僕らには、その光輝く逞しい筋肉をあらわにした夏、不意に湧き出る油井のように喜びをまきちらし、僕らを黒い重油でまみれさせる夏、それが終わりなく続き、決して終わらないように感じられてくるのだった。」

と表現してしまう大江はやっぱりこのとき23歳だ。むしろ23歳だからこそ許されるのだ。

23歳の青年が書いた文章に大人たちがよってたかって大江健三郎は難しいと言ってしまうのだから、その23歳は素晴らしい男だと言うほかない。あの詩的で難解な文章というのは経験が蓄積されていない若い23歳という年齢ならではのものなので、是非若い内に読んでいただきたい。

元東京都知事の猪瀬さんも作家を志している時分には大江健三郎や石原慎太郎が芥川賞をとった23歳までにおれも芥川賞をとらねばと燃えていたそうだが、それほどまでその23歳というのは偉大だったのだろう。

で、本当に23歳の大江を彼の文章で噛み締めるのは面倒だという人には大島渚監督の『飼育』(三國連太郎主演!)を見てもいいかもしれない。話の筋は戦争下における大人たちの醜さというものに重きが置かれている点でやや大島節ではあるが、閉塞的なものをじめじめと描く大江健三郎の世界観の再現度という点ではかなり忠実に撮られているので、見る価値はあるかもしれない。

images


Leave a comment

Your email address will not be published.