JISCOMのヘイトフルエイト 〜 ヘイトフル・エイトとリンカーンの手紙〜


ついにタランティーノの最新作『ヘイトフルエイト』が公開されました。

JISCOMのタランティーノバカ三人は興奮冷めやらぬまま、計8本の記事を書き、リスペクトを込めた特集にしました。3回か4回に分けて公開していきたいと思います。

まずはこいつの記事だ!

 

 

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 最近、どこもかしこもヘイト・ヘイト・ヘイト。右も左も区別がつかなくなってきた。誰一人ホントのことを言わなくなった。本当のことを言ったら殺される世の中だからか!でもホントのことって一体なにかしらん?

 そんな世間のカオスをまるごとぎゅっと濃縮したクエンティン・タランティーノの新作『ヘイトフル・エイト』。音楽を担当したエンニオ・モリコーネや70mmフィルム及びウルトラパナビジョン70についてはパンフレットや映画秘宝を読んでもらうとして、ここでは内容の見所を紹介したい。

 

物語は黒人賞金稼ぎのマーキス・ウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)が白人賞金稼ぎジョン・ルース(カート・ラッセル)の馬車に乗せてもらうところから始まる。ウォーレンは南北戦争に従軍し、なおかつ奴隷制度を維持しようとする南部同盟の捕虜収容所から脱走した経験の持ち主だった。そんな彼が懐で温めている手紙がある。手紙の差出人はかの有名なエイブラハム・リンカーンだ。何故アメリカ合衆国第16代大統領からの手紙をウォーレンが持っているのか。ウォーレンとエイブは南北戦争からの友人で、文通相手でもあった。

その関係性を羨むジョンが手紙を見せてくれとウォーレンに頼むシーンがある。快く了承したウォーレンが手紙を見せるのだが、ジョンの腕に繋がれた女囚人デイジー・ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)がいきなり手紙に唾を吐きかける。怒ったウォーレンはデイジーをぶん殴って馬車から突き落とし、一緒に繋がれていた賞金稼ぎジョンと手紙も落ちてしまう。

 雪の上に乗っかった手紙を大事に懐へしまうウォーレン。しかし中盤でその手紙がウォーレン自身の手によって書かれたものだということが皆にバレてしまう。バラしたのは黒人嫌いの自称保安官のクリス・マニックス(ウォルトン・ゴギンズ)だ。

 

「この中(ヘイトフル・エイトの連中)でリンカーンと文通できる奴なんていねぇよバカ」

 

 けれども、ウォーレンは虚栄心で手紙を書いたワケではなかった。「黒人が安全なのは白人が丸腰のときだけ」とウォーレンは言う。心底憎み、全く信用ならない白人たちと、なんとか巧くやっていくための手段がこの時代には必要だった彼は、白人連中に馴染むための材料として手紙を書いたのだった。つまり偽物でも本物でもウォーレンには大事な手紙なのだ。だからデイジーをぶん殴ったのだ!

 

偽装手紙の一件から次第に山小屋の雰囲気も悪くなっていく。次々に死者が続出し、誰が敵で誰が味方か分からず、疑心暗鬼になる面々。それはある種、古から現代まで続く殺し合いの連鎖のよう……

 

ところで、その手紙にはどんな文言が記されているのだろうか。リンカーンの「俺んちのラズベリーパイを食べにこいよ」というお誘いか、はたまた「演劇を観てる最中に殺される気がしてならない」という予言書めいたものか?いやいや、そこにはリアリティ溢れるリンカーンからの励ましと、労いの言葉がつらつらと書かれてあるだけ。勿論それは黒人のウォーレンが書いたものだが、文面からは微かにリンカーンの思いと、ウォーレンの希望ひいてはタランティーノの願いが見受けられなくもない。(俺の考え過ぎだろうか?)

そんな大事な手紙が物語のラストでぐしゃぐしゃに丸められてポイッと捨てられるときがやって来る。けれどもウォーレンは満足気な表情。というのも雪山で死に直面したウォーレンたちは、緊迫した状態から脱しようと懸命に頭を働かせる。そこで一人の男が重要なことに気づき、驚きの行動に出るのだ。

 

「差別なんかしてるヒマねえ。生きねば」

 

男は瞬く間に人種の壁をブッ壊し、リンカーンの手紙を必要としない関係性をウォーレンと共に創り上げる。それまでヘイトな関係だった奴らが一緒に手を組むそのカタルシスたるや……

そして問題の壁を壊した人物とは、何を隠そう黒人差別主義者クリス・マニックスなのだ。彼が差別主義者から一保安官として成長し、もうこんなものはいらん!という具合に手紙を捨てることで、リンカーンと文通をすることができなかったウォーレンが元差別主義者と笑い合えるようになる。これぞ正しく最高のバディムービー。バイバイリンカーン!そして、いままでとは一味違う一面を見せてくれたタランティーノ、ここに極まれり!

 

オシリ・ギャラガー