『大人になれば Vol.7』ひろし


先日、先輩から急に連絡が来た。
その先輩とは昨年末にちょっと揉めてから疎遠になっていたのだが、
唐突に「山形で会わない?」なんて言われたのだ。
東京にいた人が山形で会おうなんて一体何があったのだろう。
精神的に相当参っちゃったのかもしれない。
壮絶に女にフラれたのかもしれない。
もしくはなんか仕事でも始めたのかもしれない。
何か理由があるに決まっているのだから、
大人のエチケットで敢えて詮索はしなかった。
そんで慌てて山形行きの夜行バスのチケットをとり、
目的や詳細もあやふやなまま
とりあえず朝の6時に山形に到着した。

ここで大きな問題に直面することになる。
山形に到着したのは良いものの、
肝心の先輩の居所がよく分からなかったのだ。
前日に住所だけ教えてくれて、
この時点で怪しいと思うべきだったのだが、
ホテルとかに宿泊しているもんだとばかり思っていたのが
実際は先輩の知り合いの家の住所だった。

電話してもメールをしても全く反応なく、
お巡りさんや朝から活発に活動するおばあちゃんたちに聞き込みをしながら
ようやく辿り着いたのが朝8時。
ほぼまともな睡眠もとれないまま、
やけに寒く感じる「みちのくの朝」をさまよい、
やっとこさ辿り着いたと思ったのも束の間
寝ぼけてムニャムニャしながら「山形までようこそ」なんて
酒臭い先輩から握手を求められる。
こうして山形での不思議な一日は始まったのだった。

寝起きの先輩

寝起きの先輩

先輩がなぜ山形にいたかと言うと、
先輩の知り合いが山形で写真展を行うのを手伝っているということだった。
そんで、その人に自分を会わせてみたいという思いで誘ったという。
もうしょっぱなから「?」の連続である。
わけを知ろうとせず、行った自分も悪いっちゃ悪いのだが。
その後、写真展の開催場所が‘かみのやま温泉’であることを知り、
かみのやまに住んでいる人達の写真を撮った写真展であることを知り、
そこに訪れた人の写真を撮るという仕事を任されていることを知り、
それが次回の写真展で使用されることを知った。
どうやら、お手伝いa.k.aパシリとなる代わりに
写真家デビューの機会がいつの間に与えられることになったらしい。
おう、ラッキー。

確かに一眼レフのフィルムカメラを持ってはいるが、
人に見せる写真を撮るために買ったのではないし、正しい使い方もよく知らない。
ある時には、アクセサリーと思っていたくらいだ。
まあでも、ここまで来て断ることも出来ないので
「プロカメラマンの卵」と身分を偽り撮っていくことに。
話は想像していたものとだいぶ違う方向へと逸れていった。

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前の日は1日で10人しかお客さんが来なかったらしいが、
その日はおよそ200人も来た。
いきなりの写真撮影をお願いしても快くOKしてくださり、
「よく撮れてたら送ってくれよ!」なんて言って頂いたり
「立派なカメラマンになれよ!」なんて言葉もあったりと
かみのやまの方々は本当に素晴らしかった。
ご飯や飲み物の差し入れでお腹がいっぱいになった。

150円で入れる共同浴場に入った時は、
これから場外馬券場に行こうとしている66歳の独身貴族と出会い、
40代の彼女がいる話や自身の結婚観について語ってもらった。
「また俺が生きているうちに来いや」という別れの言葉が粋だった。
交通整備のバイトをしているおっちゃんは、
小説をこよなく愛し、少年のような瞳をしている65歳だった。
繰り返しになるが、言えることは一つ。
かみのやまの方々は本当に素晴らしかった。

先輩の知り合いは今年に入って脱サラをし、
東京からおばあちゃんの住んでいる山形に移住、
そして町おこしを始めたという。
若くしてとんでもないバイタリティのある方で、
先輩は「あいつ少しうさん臭いんだよ!」とか言っていたけど、
それも含めて十分魅力のある方だった。
ちなみに「うさんくさい」は山形弁で「はらだくさい」というらしい。

どうにか一段落し、通称「マコちゃん」というおじちゃんのスナックで
打ち上げをしている時、衝撃の事実が判明した。
なんと先輩の知り合いの実家が、自分の実家とチャリで10分の距離だったのだ。
先輩の急な誘いから始まった山形旅行が、
ちょっとした偶然の連続でちょっとした奇跡が生まれるなんて
なんだかちょっと嬉しい気持ちになった。

あんまり話がまとまっていないのだが、
それは自分でも事態をうまく消化出来ていないということ。
本当は、節操のないスナックのおばちゃんの話や
セックスはスポーツか否かで揉めた話もしたいのだが、今回は割愛しよう。
疲れたけど、メチャクチャだったけど、カメラマン志望と嘘を突き通してしまったけど、
とりあえず最高の旅となった。
こんな一日を忘れることは出来ないだろう。
翌日の朝、3人で起きてからボーっとしていた。
先輩の知り合いのが「緑茶、コーヒー、ほうじ茶、紅茶。何飲む?」
とふと呟き、そっと立ち上がった。
やけに美味い煎れたてのあったかいほうじ茶を飲みながら
これが大人なのかと妙に納得したものである。

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先輩の知り合いこと武山和さんに要注目だ!

「街路樹」尾崎豊

http://www.youtube.com/watch?v=VLeFVz-uxTU