『大人になれば Vol.9〜ヌシ編〜』


 

高校時代からの友人で「ヌシ」という奴がいる。

名字は日本で最も多いあれ。そして名前は、

あまりポピュラーすぎるわけではないのだけれど、

なぜかクラスで4人もいたあれ。

というわけであだ名が付くことになったのだが、

この田中という奴は面倒くさがりで、

休み時間であろうが何だろうが一日中窓際の席に居座っており、

「窓際の主」略して「ヌシ」となった。

 

 

高校2年生のある日を境に、ほとんどヌシと一緒にいた。

お互い帰る方向が同じということ、

部活をしていないということ、

バイトをして金銭的な余裕が少しあること、

ヌシに彼女がいるということを除いては

お互い多くの共通点があったからなのだろう。

ゲームセンターのパチンコをやったり、

駅のそば屋で早食い競争をやったり、

休みの日なんかは場外馬券場に繰り出したりした。

大学の付属校だったこともあり、

そんな生活は同じ大学に入ってからも続いた。

 

 

そして大学三年になり二人とも少し遠い校舎に移ることになった。

電車で換算すると20分くらい長くなった。

20分なんて大したことないはずなのだが、

天下一品の面倒くさがりであるヌシには痛手であった。

途端に学校に来なくなり、

バイト・パチンコ・麻雀・長距離ドライブ・恋愛と

自分の手が届く距離でしか生活しなくなってしまった。

そして、みなさんここで想像が付くだろう。

上に挙げた5つ全てに共通点があることに。

そんな生活を学校にほとんど通わず半年間続けた結果、

腰へ甚大なダメージを負い

椎間板ヘルニアで入院することになってしまったのだった。

 

 

時は流れて現在。

私は大学を卒業して就職。年末年始ということで実家に帰ってきている。

前回ヌシと会ったのは今年の2月で、

それまでほとんど音信不通だったので何をしていたのかと聞い時は、

ニューヨークに行っていたと言うのだ。驚きである。

だが、やはり面倒くさがりを発揮し

ほとんど知り合いの日本人の家にいたらしい。

英語は全く上達していなかった。まさに、ヌシだ。

昨日、ヌシに久々に連絡を取った。空いてる日があるか尋ねた。

「今、単位取るのにめっちゃ勉強してんだ。。でも大丈夫」

大学6年目にして、やっと面倒くさがりのケツに火がついたようだ。

明後日は地元の駅で13時に待ち合わせをし、

飽きるまで仲良く隣に並んでパチンコを打つ。そんな日になりそうだ。

ヌシが勝ったら、4年前に立て替えてやった駐車違反代と

5年前にも立て替えてやったスピード違反代を返してくれるかもしれない。

そんな期待を1%くらい抱きながら、腐れ縁というものは続いていくのだ。

 

 

『コーヒーブルース』前野健太