『大人になれば vol.12 〜父ちゃん編2〜』


 

父ちゃんから12年振りの便りが来た。

たしか、中学校一年生の時に母ちゃんが家から追い出し

母ちゃんは時々電話で話していたようだが、

自分宛に何かメッセージを発信することは全くなかった。

あの時が12歳。今は24歳。

ちょうど人生の半分を父ちゃんと過ごしていないことになった。

一緒にパチンコに行ったり、場外馬券場に行ったり、

きっと怪しい仲に違いない女性と食事に行ったり

はたまた、袋とじの破き方がめちゃくちゃ雑な週刊誌を

俺の人生勉強用に常に家に置いてくれていたりと

12年という時間の中で様々なことを教えてくれた。

 

 

そんな父ちゃんからの12年振りの便りはあまりに唐突。

家のポストに入った封筒。

宛名も何もないが、その封筒は父ちゃんの今も変わらぬ勤務先。

切手は付いていなかった。恐る恐る中身を開けてみると、

東京ドームで行われる巨人対ヤクルトの内野席チケット2枚

試合前にグラウンドに入れる特別招待券

なんかちょっとした限定グッズとの引換券が入っていた。

そして、それらと合わせてピン札の一万円札が1枚。

他に何か手紙のようなものはなかった。

 

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父ちゃんは熱烈な巨人ファン。

巨人対阪神の試合を小さい頃一緒に見に行った時、

負けて落ち込んでいる阪神ファンに対して聞こえるか聞こえないかギリギリの野次を飛ばし、

結局「やべー、聞かれちゃった」と大焦りで逃げたこともあるくらいなのである。

の割には、チケットの座席をよく見ると三塁側のアウェー席。

しばらく見ない間に丸くなったのか、在京軍団に甘いのか

まあおそらくは誰かにもらったものなのだろう。

だから、何かちょっとは父親らしいところを見せようとして

ピン札の一万円札を忍ばせたのだろう。

それを目にした瞬間、正直な話をすると少しだけ心を揺さぶられた。

今まで苦くて飲みにくいなと思っていたビールが、

ほんの少しだけ美味しく感じた時のような、

いやちょっとそれは言い過ぎなのかもしれないが

確かに嬉しいと思ってしまったのだ。

カッコつけてるけどカッコ悪い、そんでもってだらしなくて情けない男である

父ちゃんがしたためた一万円札の意味は、俺にはなんとなく分かった気がした。

 

 

もちろんちゃんと試合を見に行って、巨人が勝って万々歳。

父ちゃんが近くにいるのではとも思ったのだが、

やっぱりいるはずもなかった。そんな根性のある男ではないことは知っている。

少しばかりドラマチックな展開で再開することも出来たはずの今回、

そのチャンスをみすみすと逃した父ちゃんから、次はどんな便りが届くのだろうか

多少の期待感は湧いてきている。特に会いたいとも思っていなかったのだが、

あれから12年が経って今だから話せるとんでもない話とか

男同士でしか話せないことなど、腹を割って一緒に酒でも飲んでみたくなった。

でも、直接家のポストまで届けてるし、もしかしたら東京ドームで遠くから望遠鏡で見ていたかもしれないし

いくらなんでも気持ち悪いなとも感じてはいる。

まあ、いっぺん会って話してみるのがいいのだろう。

確実に血が繋がっているわけだし、父ちゃんを知ることで自分を知ることが出来るかもしれない。

大人になれば、こういうことが気になってくるもんなんだなと

しみじみ思う24歳の6月でありました。

 

『嵐を呼ぶ男』舘ひろし

https://www.youtube.com/watch?v=l0fxArm14PI