『大人になれば vol.13 〜確かな老化編〜』


 

仕事中はずっとパソコンに向かい得体の知れない何かと格闘。

最近はそれなりに忙しいので12時頃にとぼとぼと帰宅。

パンツ一丁でクーラーをガンガンに効かせながら缶ビールを飲み、

最近買ったばかりのサンプラーMPC-1000と共に飽きるまでエセ作曲。

いつ寝たのかもはっきりとしないまま、気付けば、また新しい1日の始まり。

昨日と今日がくっついた日々が最近は続いている。

やはり、そういう生活を続けた結果、ちょっとずつ体にガタがき始めた。

2、3年前は丸2日くらいほとんど寝ていなくても大丈夫だったのに、

肩こり・むくみ・冷え性といった、まるで”丸の内OL”と同じような悩みを

抱える24歳の男になってしまったのだ。

好きな映画は『タクシードライバー』で、好きなたばこはHOPE。

好きな酒は芋焼酎で、好きなつまみはイカの塩辛。

ちょっと無理して背伸びをしながら生きてきたこれまでの人生、

その挙句、今の悩みは肩こり・むくみ・冷え性。

大人になろうとするのは、なかなか大変なことだなと感じた次第である。

 

 

そんなナイーブな悩みを解消するために、最近鍼灸院に通い始めた。

高校時代ボクシングをやっていた頃、体のケアのために何度か行ったことはあった。

当時はいかにも”アスリート”面して「筋肉の張りが…」なんて言っていたものだが、

今や「肩こり。あと足のむくみが…」と”丸の内OL”風である。

カラオケでJUJUを歌っているような奴らと同じになってしまった俺のどこが悪いのか、

そこで先生から言われたのが、一番の原因は足の冷えということだった。

”頭寒足熱”の言葉は全くもってその通りで、

足が冷えてしまうと全体の血流を損ねてしまい、それが肩こりやむくみに繋がるらしく

つまりは足をあっためることが一番の近道ということだった。

 

「じゃあ、足をあっためるのに何が良いんですか?」

 

「それはね…五本指靴下よ」

 

「それって、もしかして…。あの、俺のじいちゃんが履いていたやつですか?」

 

「…多分その通りよ」

 

「…」

 

「五本指靴下が、あなたを救うわ」

 

ちょっと台詞の部分はオーバーにしておりますが、

五本指靴下という言葉の持つ引力の凄まじさと言ったら、これはもう久々の衝撃。

自分で撮った写真をアルバムにまとめて、

表紙の題名スペースに「写真集 vol.1」と書こうとしたら「射真集 vol.1」と書き損じてしまった時以来の

心がキュッとなる瞬間だった。

すぐさまこの周辺で五本指靴下が手に入る店を先生に教えてもらい、

丸井の「靴下屋」という、あまりにも本性を露呈しすぎているそのまんまな名前の店へ向かった。

 

 

結果から言うと、4,000円分の靴下を買ってしまった。

カラフルなタイプを2足、あえての足袋スタイルを1足、

そしてどうやらシルクが良いらしいという話だったので女性用で一番でかいサイズのを1足を購入し、

どうやら人生で一番靴下に金をかけた1日となった。

早速、うんこをしたついでに靴下を履き替え

この時は女性用シルクタイプをチョイスしたのだが、

これはびっくり五本指で迎えた初夜は足のむくみがすっかり消えていた。

なんて単純な体なのだろう。これはこれでいいのだろうけど。

五本指靴下は俺を救った。

 

女性用シルク五本指

女性用シルク五本指

グリーン五本指

グリーン五本指

カラフル五本指

カラフル五本指

あえての足袋スタイル

あえての足袋スタイル

 

と、実はここまで書いたのは一ヶ月前の話。だいぶ寝かせました。

それからもずっと五本指を履き続け、忙しい生活を送りながらも健康で居続けることができていた。

ちょうどそんな折に会社の健康診断の日が到来。

ちょっとしたハプニングがその時起きた。

身長や体重を測り、視力検査、心電図など順調に進んでおり、次の関門は採血。

ベテランのおばあちゃんが要領よく俺の腕を縛り上げ、血液を搾り取ろうとした。

左右の腕をチェックして「あなたは右ね」なんてちょっとした風格も漂わせたりもした。

しかし、彼女は手こずった。いや、おれが手こずらせたのかもしれない。

まさかのドロドロ血液で幾らたっても規定量の血液を採取できないのだ。

「気分悪くないですか?大丈夫ですか?」と言われてる間、

およそ30%ほど意識が遠くなっていたのだが、

必死に耐えた結果、彼女はとうとうギブアップした。

 

「今日、ちゃんと水分取りました?ちょっと水飲んで休憩してください」

 

静かに頷き、しばし休憩。

確かにあんまり水を飲んでいなかったなと思い返し、

ちっちゃいコップ一杯だけ飲み休息をとった。

そして、第2ラウンド。そこでなんと、ベテランの彼女は棄権した。

変わって隣にいた若い新人の女の子が、ちょっとだけぎこちなく俺の腕を縛り上げた。

今度は、ベテランが敢えて避けた左腕だ。

 

「見てろよ、ベテラン」

 

心の声が聞こえたのかもしれない。ベテラン隣でじっと行く末を見つめていた。

そういえば新人のぎこちない手つきで刺す針は、少し痛すぎた。

一瞬、唾を飲み目を瞑った。

目を開くと、必死に俺の腕に集中する新人と

俺たち2人の姿ををはっきり凝視するベテラン。

息詰まる攻防戦。

になるはずだった。

おそらく、それから15秒もかからなかったのではないだろうか。

ベテランは顔を背け、特に何のコメントを残すわけでもなく

自分の業務へ戻っていった。

新人が漏らしたホッとした吐息は、俺だけのものに違いない。

またしても若干意識が遠くなりながらも、十分な血液は採取された。

戦いに勝ったのだ。

 

とりあえず、俺を男に戻してくれた五本指靴下。

今からこんな話では、ちょっと先が思いやられる次第である。

だんだん、病院がこわい。明日は歯医者だ。

 

『I Wonder』Rodriguez

 

ひろし