『大人になればvol.15 〜柴ちゃん編〜』


 

 

俺と柴ちゃんとの出会いは5年前。

5年前に何があったかは正直覚えていない。

感覚的にそれくらいの気がするだけだ。

元々友達の友達であった柴ちゃん。数人を交えて何回か飲むことはあった。

ところが、去年から急に2人で飲むようになった。

縁というのは不思議なもので、先日会ったのが3回目、初めて柴ちゃんから誘ってくれた。

自費で出版した小説を俺に渡したい、それが理由だったようだ。

漫画喫茶でコツコツ働いて貯めた20万円を、派手にブッ込んで刷られた50冊。

そのうちの1冊がいくらするのか、計算は簡単である。

 

 

夜9時半に高円寺で待ち合わせ。

「店どこにすっか?」と何気なく聞いてみると

「小説渡すから…周りに見られない仕切りのあるところが良い」と

意外性満点な答えが返ってきた。

髭面かつたばこは「わかば」、酒好きのコテコテの九州男児にしては

案外繊細なとこがあるんだなと初めて知った。

お互いろくに金もないくせに

ちょと敷居の高そうな和食居酒屋に入ることにした。

入ったらまずビール、はいつものこと。

そして、しばらく無言でたばこを吸い始め

向き合って座ってから、なかなか焦点が合わないのもいつものこと。

乾杯、お疲れ、さて本を受け取ろうか、と本題に入ることなく

酒を飲み始めると一気に話が脱線するのもいつものこと。

まず、脱線して始まったのが、キューブリックの話であった。

 

 

どうやら最近、柴ちゃんはキューブリックについて大発見をしたらしい。

また、フリーメイソンとSiriの関係についても、何かしら気づいてしまったらしい。

知ってしまった以上は、命を狙われる可能性があると冗談っぽく言っていた。

世紀の大発見をした時のプリントスクリーン画像を見せてもらうと、

調べている時の時間は朝の4時頃。

確かに興味深い話ではあったし鳥肌も立ったのだけれど、

そんな時間に、そんなことを、そんな真剣に調べている柴ちゃんの方に驚いてしまった。

もう少し話がまとまったら『MW』に企画を持ち込むという。

遺伝のせいでハゲてきていることを、大層気にしているみたいだが、

多分こういうところに原因があるのだろうと、個人的には思った。

 

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かれこれ店に入ってから40分くらい経って、ようやく小説が手渡された。

柴ちゃんは2杯目のビール、俺は焼酎に手が伸びていた。

題名は『CHINP!』。

写真にある通り柴ちゃんの顔が思いっきり表紙になっているのだが、

手にした感じや全体的な見た目はとても上質だった。

裏側にはもちろん通常の小説と同じように定価が記載しており、

そこには「本体500円+税」とあった。

どんだけ売ったとしてもめちゃくちゃ損をする仕組みである。

そして俺はこの本をタダで貰っている。

だけどやる。そして、渡す時に少し照れる。渡された俺も少し照れる。

女将さんが、しいたけの七輪焼きを運んでくる。

それに合わせて、日本酒利き酒セットを2つ頼む。

ふとテレビに目をやると、二階堂ふみが映っている。

二階堂ふみがいかにカワイイか、そこらへんにいる女たちが

いかにしょうもないかの話になる。

再び話が脱線するまでの流れは、ざっとこんな感じである。

 

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それからはまるで哲学の話だった。

内容は「ムード」と「情緒」の違い。

端的に言うならば、「ムード」は外見で「情緒」は中身だ。

世間では「ムード」ばかりが喧伝され、

「ムード」に溢れた男たちを「ムード」に流された女が求め、

「情緒」を「ムード」と勘違いした女たちを

「情緒」なんて読むことすらできない男たちが追いかける。

そういう世界で生きる俺たちは、”我慢汁”が出るばかり。

けれど意地でも”甘ん汁”だけは流さんぞ。

そう、これは間違いなく哲学の話である。

2人に共通しているのは、女と話すのが苦手ということ。

それがかなり偏屈な論理へと飛躍し、

ひいてはモテる男たちへの僻みへ落ち着く。

ちょうどここらで閉店時間。次の店へ向かうことにした。

 

 

それから小一時間くらい高円寺の街を彷徨っただろう。

どこでも良いと言いながらも、実際はどこでも良いわけではない。

そういう、ある種のこだわりを持った2人が揃うと、こうなるのは仕方がないのである。

途中、立ち連れションを挟みながら(一応、迷惑のかからないとこで)

結局入ったのは、謎のコスプレバーだった。

柴ちゃんは、こういう店に入ったことがあるというが

断然スナック派の俺にとってはかなりの抵抗があった。

よくわからんコスプレをして、今にもパンツが見えそうな女の子たち。

強烈アレンジでアニメソングを歌い上げる客の男たち。

店の真ん中にはステージがあり、お金を払うと女の子たちが歌ってくれるシステムらしい。

俺はここで完全に酔いが覚めた。一方、柴ちゃんは完全に酔いが回った。

客の誰かがいくらか分からないが金を払って、オンステージダンスショーが始まる。

それからというもの、今まで見たことない柴ちゃんがそこにいた。

満面の笑顔で手を振り、コールをし、お酒を飲み、たばこを吸う。

これ以上ないくらい幸せそうだった。

「久々にちゃんと女の子と喋ったわ~。もしかしたら、好きになったかもしれん」

こんな言葉を、コスプレバーを出た後に立ち寄った富士そばで漏らしていた。

きっと2人で飲んだら、またこの店にいくだろう。そんなに高くないし。

柴ちゃんは女の子に恋をしたし。

俺はそんな柴ちゃんを見ていると面白いし。

情緒もクソもない、けど案外楽しかったし。

あれだけ偉そうに語り合っていたとしても、

こう自分に甘くなってしまうところが、俺たちの弱いところである。

 

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3時頃、最後にもう一度、立ち連れションをしてお開き。

柴ちゃんは家が近いからすぐに帰れるのだが、

俺はとりあえず近くの漫画喫茶に入って朝まで寝ることにした。

ただ、寝る前にちょっとだけ『CHINP!』が気になったので読むことにした。

いや、でも勿体ないからとっておこうと再びバックにしまった。

うーん、でも今読もうか、と悩んだ。

でも、やっぱ時間も時間だし、読むのはやめようと思いとどまった。

結局、フライデーを読んだまま寝てしまった、日曜の夜であった。

 

 

『WONDER WHEEL』サイプレス上野とロベルト吉野

 

ひろし