今だからこの一枚『ゆっくり風呂につかりたい』KAN  高野百万石


KANと言えば「愛は勝つ」だ。
時速160kmを超えるド直球のラブ応援ソングに多くの人達が魅了された。
うちの母ちゃんもその内の一人で、
我が子にピアノを習わせようとした。
必死の抵抗で拒んだのだが、
代わりに公文に通わされ後悔したのを覚えている。

今思うと、きっとKANも時を同じくして後悔していたはずだ。
「愛は勝つ」が売れてしまったせいで、
あり得ないくらい多忙になり余裕がなくなっていった。
そして当時付き合っていた彼女と別れることになり、
もうゆっくり風呂につかるしかないだろうと思ったのだろう。
このアルバムにはその様子が鮮明に描かれている。

「ときどき雲と話をしよう」

http://www.youtube.com/watch?v=Yr8D_6yC1Kw

結局ぼくは いつも何かにおわれて
君をつつむ大きな空にはなれなかった

相当がんばり過ぎたね 少し休もう
丘にすわり 雲と話をしよう

もうそろそろ君のことを忘れよう

この曲の一つ前には「プロボーズ」という曲を歌っている(名曲!ミスチルもカバー)。
次の曲『ぼくの彼女はおりこうさん』では、‘だけど彼女は四角いPILLOWちゃん’と言った感じに
仕方なく枕に恋をする程ズタボロになっている。
こんな正直に自分の人生を語れる人は中々いない。
その正直さ故に「愛は勝つ」が出来たのだろうが、
その後の山あり谷ありの感情も正直に歌う姿勢は、めちゃくちゃかっこいい。

「プロポーズ」

http://www.youtube.com/watch?v=cY1WjOAMsh0

アルバムの終盤には色々と仕掛け始める。
「永遠」なんて直球勝負を挑んだかと思えば、
「信じられない人」では‘真剣な時ほど明るい方が良いと思って’ラテン系のノリで誘惑し、
「イン・ザ・ネイム・オブ・ラブ」では「愛は勝つ」をちょっと弱気にした雰囲気で手を差し伸べる。
結局忘れられず、まだまだ希望を捨てていなかったのだ。
そして最後は「恋人」という曲で締めくくられる。

「恋人」

しばらく二人 別々にくらそう
結局 君をなだめられなかった

ぼくは待ってるよ 君のことを
ずっと待ってるよ ずっとだよ

切符を買う細い指を見ていた
恋人たちは みんなこうなのかな
もう会えないと 思いたくないだけ

ぼくは待っているよ 君のことを
ずっと待ってるよ ずっとだよ

改札を抜けたあたりで ぼくは無理に笑った
一番好きな君と 決めたことさ
そろそろ行くね 本当はいやだけど

もうゆっくり風呂につかっていてくれ!
ジャケットの写真でも分かるように、
まだ未練タラタラなもんだから困ってしまう。
だけど、こんな愛しく思える歌手は他にいるだろうか。
愛に負けた男の、切なくも可笑しい物語。
今だからこの一枚、おすすめです。