今だからこの一枚『Hakoniwa』キエるマキュウ 高野百万石


伝説のユニットBUDDHA BRANDで活躍したCQと、

主にDJやトラックメイカーとして活動していたMAKI THE MAGICによる2MC体制。

そして、プロデューサー兼エンジニアとしてイリジット・ツボイ。

これまでに4枚のオリジナルアルバムを残している。

2013年7月にMAKI THE MAGICが急逝してしまったことで、

結果的にこの2012年に発売された『Hakoniwa』は彼らの最後のオリジナルアルバムとなった。

 

【ぶっ飛んだ奴ら!女体射精派とは?】

知らない人のために、

キエるマキュウがどんな感じのアーティストかと言うと、

MAKI THE MAGICのリリックにある‘女体射精派’が最もイメージと合致している。

古典派、ロマン派など脈々と受け継がれて来た音楽の歴史が

キエるマキュウの登場によって塗り替えられたのだ。

衝撃的、かつかなりエッチ。

いやもう、エッチを軽く飛び越えてド変態だ。

では女体に射精することは何を意味するのか?

 

「Chiisana Tanken」(CQ)

うんこ前輪で踏んだら後輪でも踏む つまりまっすぐ突き進む

男の美学 生死ぶっ飛ばす 夢はでっかくジェットバス

 

精子=生死。

そして女体はヒップホップのことである。

ラッパーの中では、ヒップホップを女性に例えて歌うことがしばしばあるが、

それはKREVAの『音色』やCOMMONの『I Used To Love H.E.R』など、

ラブソングっぽい感じかシリアスなトーンであることが多い。

しかし、キエるマキュウは女体=ヒップホップに対して

臆面もなく精子=生死をぶちまけて愛を表現する。

ヒップップへの究極の愛情表現が、彼らの音楽そのものなのだ。

 

【愛の才能 CQ編】

BUDDHA BRANDで活躍していた当時から、

リリックの内容はぶっ飛び過ぎていた。

ただ、これはダメだろってことをハンサムに言っちゃうもんだから

非常に困っちゃうのである。

 

「Canon」

興奮して大きくなるディックのよう 上を向いていこうか

たまには危ねえ橋も渡んねえとな いや、渡るふりでもしねえとなな

 

これぞ、名リリック!

40オーバーのおじさんがこんな男らしいことを言えるなんて。

あの有名な5本指理論からすると、

やや下向きになっているだろうに。

もうここまで言えたら、渡るふりじゃないです。

十分危ない橋を渡っています。

 

「Marvin」

気持ちいいこと好きだろー 気持ちすごく込めて歌うよ

別に上手くないけれども カモン

ハンサムだ ハンサムだ ハンサムだーあ ハンサムだ

どこから来てどこへ行くのか そんなこと知らないけれど

愛があればなんだって 生きてける そんな気がしたよ

ねえ、聞いてくれよ 俺達の言葉を 生きるという事は夢を見るという事だよ

夢を見るという事は愛があるという事だよ

瞳を閉じれば思い出す あの日あの時

あの鐘を鳴らすのは俺達だった……あの鐘を鳴らすのは……

 

 

これはマーヴィン・ゲイの名曲「Let’s get it on」のメロディーに

本当に上手くない替え歌を乗せた迷曲。

ヘタウマって言葉はこの曲のためにあるようなもんだ。

曲名がMarvinってそのまんまじゃん!

音程なんてほぼ合っていない。ていうか、ない。

それでも独自のジゴロなトーンで押し切ってしまう。

さらにリリックの内容を見てもらえば分かるように超スウィート。

たぶん本場のソウルミュージックを直訳したらこうなるのだろう。

こういうことをあっさり言えちゃう愛の才能。

岡村靖幸にも勝るとも劣らない、

真の女体射精を見せてくれる。

 

【愛の才能 MAKI THE MAGIC編】

MAKIさんはキエるマキュウを始めるまで、

ほとんどラップの経験がなかった。

プロデューサーやトラックメイカーとして有名だったのに急にラップを始めて、

いきなり超絶的なワードセンスを発揮したのだから当時は相当驚かれたらしい。

 

「Meteor」

俺のミルクをペロペロ舐めな子猫ちゃん 野良猫に愛をレクチャー

天国への階段 Hell or Heaven 昇りつめるぜ そろそろBreak down

無遠慮に大胡座 俺は疲れ知らず バイアグラ

俺のマストに帆掛け船 48の海に出航

 

Meteor=流星という名のこの曲で、

かなりのセルフ・ボーストを披露している。

このラインだけで彼がどれだけの才能を持っているか分かって頂けるだろう。

わずか4小節の中に、これだけの言葉と意味(?)を詰め込むなんて

通常ではあり得ない情報量だ。

しかし一つ欠点があるとすれば、ちょっとデカいことを言い過ぎちゃうこと。

あまりにもデカすぎて、もう笑っちゃうしかない。

しかも、この後の曲でしっかりとフォローも入るのだ。

 

「Canon」

言葉たち 急降下爆撃直撃 お前を濡らす言葉の響き

あそこに塗りまくる白い粉 お前のバター犬になりたい

 

今度は一転して、野良猫に愛をレクチャーするどころか

バター犬になりたいと高らかに宣言する。

ダンディズムのCQに対して、キュート路線のMAKI。

ちょっとキュートというのもどうかと思うが、

女体に振り回されながらとにかく射精しようと

ガムシャラになる姿はとてもかわいらしく応援したくなる。

ただこれだけだと、MAKIさんのキュートさだけが際立ってしまうので

もう一曲、「実は男らしいぞ!」ってところを紹介したい。

 

「Mirai」

しなびた知性 気の抜けたビール 命は二の次 自分が大事

二本で歩き最後は大の字 見る前に躊躇わず飛ぶ 何かが変わる…

 

 

亡くなってしまった今、この曲を聴くと少し染みてくる。

命を二の次にぶちまけ続けた男の美学。

俺はもう‘ぶっかけられた’気分だ。

 

【愛の才能を支える男 イリジット・ツボイ】

CDで聴いていても音圧の異様さに驚いてしまう。

そこらへんのアーティストとは格段に違う、音の重厚さ。

インストCDを聴いて更に驚き、

レコードで買ってまたまた驚いてしまった。

あまり専門的なことは分からないが、

イリジット・ツボイさんがキエるマキュウのサウンド面を

圧倒的なレベルに押し上げていることは間違いない。

 

通常の人間では聞こえない音を入れたり、

意味のないエフェクトを入れたりするなど、偏執的なまでの音へのこだわり。

MCの2人と同じように確かにぶっ飛んでおり、

RHYMESTERのライブではターンテーブルをギターのように扱い

最終的にはレコードを折り曲げ帽子のように被っていた。

’サウンドのバイオレンス’と呼ばれる所以はここにある。

女体射精派として新しいヒッピホップの歴史を築いたキエるマキュウは

彼の貢献なくしてあり得なかっただろう。

(↓ ツボイさんの勇姿)

 

 

【さいごに ~明日に向かって撃て!~】

恐らくこれが最後のオリジナルアルバムになる。

予期していなかっただろうが、最後の最後にとんでもない傑作が出来上がったのだ。

ヒップホップ業界以外ではあまり注目されなかったが、

今じゃなくても数十年後には必ずや名盤と認められているはずだ。いや認められていてほしい!

2014年7月、ベストアルバム『明日に向かって撃て!』が発売された。

これはキエるマキュウからのメッセージである。

「まだ終わっちゃいないよ。お前らもそうだろ?」

だから今回、この特集でキエるマキュウを取り上げた。

 

「Meteor」(CQ)

Feel so good ぶっ飛ぶキエるマキュウ

理性奪う禁断のランデブー 言い訳はしない 主義に反するから

Do the right thing Don’t believe the hype

 

https://www.youtube.com/watch?v=Lf2-btf2Ehk

 

これが本物のヒップホップだ!