今だからこの一枚 『DATE』岡村靖幸


岡村ちゃんとの出会いは18歳。
大学に入学して初めて出来た二つ年上の彼女が、
カラオケで「カルアミルク」を歌っていたのを聞き、
なんか変な曲だな感じたのが初めだ。
それから二年が経ちその彼女とも別れ、
勉強するでもなくバイトをするでもなくダラダラ過ごす、
ちょっとしたノイローゼ状態。
初めて風俗というのに行ったのもこの頃だったろう。
そんな時、梅林という骨と皮だけで出来たような先輩から
このアルバムを貸してもらった。
紫色のジャケットで、妙な表情をしている変な男。
20歳になってようやく、岡村ちゃんの世界にハマったのだった。

 「19(ninetenn)」 作詞・作曲:岡村靖幸
 サンバでビーバップ踊れば10歳戻り
 大学に行ってりゃ今頃立派なとこへ
 まだ、でも誰もできぬキスがしたいの

http://www.youtube.com/watch?v=81-boi3D9y0

高校を中退して音楽の世界に飛び出した岡村ちゃん。
23歳になって初めてのアルバムの一曲目で、
いわゆる‘大人’になることをポップに否定する。
永遠の19歳、永遠の青春。
これらを求め、歌い続けることを高らかに宣言した
岡村ちゃんワールドの幕開けである。

しかし、ただポップなだけじゃノイローゼ気味な気持ちは晴れなかっただろう。
アルバムが中盤にさしかかる所で、
何の前触れもなく、とても美しいバラードが流れ始める。

 「Lion Heart」 作詞・作曲:岡村靖幸
 Oh 猛獣の様なハートであのとき
 Oh 激しく抱きしめてたなら
 新しいクリスマスが僕だけを亜麻色に染め 「幸せか?」とたずね
 今日はどんなお酒でも酔えないよ

こんなに真っすぐで邪念のかけらもない、
恥ずかしくなるくらいのラブソングがあるだろうか。
全世界にむけて23歳の男が歌った愛の告白。
猛獣の様なハートとは裏腹の、とろけちまいそうなスウィートさ。
いや、スウィートを通り越して気持ち悪いくらい。
俺はチャリンコで20分の距離に住んでいた彼女にさえ
下手なプライドのせいで何も言えなかったのに、
岡村ちゃんったら凄まじい勢いで愛を隠さない。
銭湯でちんちんを隠すような人生を送っていたと、
生まれて20年経ち初めて気付いた瞬間だった。

アルバムも終盤にかかると、世界は更に深く深く
赤い情熱と青い青春が混ざり合いながら、
見たことのない鮮やかな濃い紫色に染まっていく。
それはまさしく、高度経済成長で過度に色づき始めた社会への
一種の挑戦状のようでもある。
こんな僕じゃいけないのかい?
こんなに好きじゃいけないのかい?
こんな世の中でも愛し合っちゃいけないのかい?
幻のように彩られた愛と青春にむけて
必死に問いかける。そのむさ苦しいほどの想いの結晶がこの曲だ。

 「イケナイコトカイ」 作詞・作曲:岡村靖幸
 いけないことかい?
 傷ついても二度とはもう離したくない Baby
 息ができないほど愛してるよ

 真夏の雨の様に 18,19が蒸発したけど
 このぼくらは 今ならば大人だろうか
 切ない夜は屋上にのぼって 壁にもたれてるだ
 「ねえドンファン 正しいことなのか?」
 彼女のLove,sex,kiss 朝からずっと待っている

まぶしく溺れてしまいそうなくらいに信じる、
待っている姿は究極の愛の形である。
機械じかけのような世界に対して、
カタカナで「イケナイコトカイ」と格好良くたち向かい、
愛をむき出しにして戦う。
岡村ちゃん以上に勇敢な男はいないと、この時分かってしまった。

ああ、俺はちんちんを隠さなきゃいけないくらいに
全然むき出していなかったのだ。
フラれた理由もはっきり納得出来た気がした。
話はこのアルバムを貸してくれた、先輩の梅林に戻る。
岡村ちゃんに勇気を貰い続けた梅林は、
クリスマス差し迫る12月にずっと好きだった女の子に告白をした。
俺にとってはやっぱり、まあキレイさっぱりとフラれた。

そして大晦日、梅林はなぜかうちの実家に来ていた。
自分の実家に帰る金も気力もなくなったのだという。
「梅林くん、年越し蕎麦食べる?」と聞いた母ちゃんに対して
骨と皮だけのガリガリの梅林は、
「いや、ご飯が食べたいです」と答えた。
梅林よ、あんたも男だ。はやく彼女つくれ!

岡村ちゃんの最新曲『愛はおしゃれじゃない』